2008年12月12日金曜日

滋賀県立大学こころとからだ研究会・京都大学発達科学研究会合同セミナーのお知らせ

このたび、(財)精神・神経科学振興財団の招聘で来日された英国Cardiff大学心理学部のDale Hay先生をお迎えして合同セミナーを実施いたします。国立精神・神経センター精神保健研究所の神尾陽子先生、石川文子先生にもご参加いただきます。向社会的行動の初期発達について議論が深まりますよう、多数のご参加をお待ちしております。

●日時:2008年12月18日(木)16時~17時30分
●会場:芝蘭会館別館地下会議室
●話題提供者:Dale Hay氏(英国Cardiff大学心理学部教授)
●演題:The Early Development of Prosocial Behaviour
●要旨:In common wisdom, infants and very young children are thought to be naturally aggressive, only developing the capacity for prosocial behaviour over the childhood years. However, since the 1930s, observational studies of children under the age of three have drawn attention to early forms of sharing, cooperation and sympathy. I will present a developmental model that focuses attention on three domains of prosocial development: feeling for others (empathy), working with others (sharing resources, instrumental helping, and cooperation) and ministering to others (caregiving, nurturance, and responses to illness and distress). I will then present evidence for the early origins of behaviours in each domain, the consolidation of individual differences within domains, and the emergence of sex differences. I will then present evidence for links between childhood disorders and prosocial behaviour; children with ADHD may have specific deficits in the prosocial realm, whereas some children with anxiety disorders may actually have relatively high levels of prosocial behaviour.
【世間一般では、小さな子どもは生来攻撃的で、児童期に入って初めて向社会性が発達すると思われています。しかしながら、1930年代以来行われてきた、3歳以下の子どもを対象とした観察研究の知見での、初歩的なシェアリング、協力、同情といった小さな子どもの対人行動特徴に注目が集まりました。今回のレクチャーでは、発達モデルを提示するとともに、三つの向社会性領域、対人感情(共感)、対人協力(物のシェアリング、お手伝い、協力)、対人ほう助(手助け、病人や気落ちした人へのケアや反応)、について焦点を当てます。また、それぞれの領域についての初期的な原型行動のエビデンスを示すとともに、領域内における個人差の強化性、そして徐々に発現する性差についてお話します。最後に、児童期の障害と向社会性とのリンク、具体的には、ADHD(注意欠陥多動性障害)を持つ子どもの、向社会性欠陥の可能性、一方、不安障害のある子どもは比較的高レベルの向社会性を持つ可能性、の二つについて語ります。】

2008年10月21日火曜日

第32回こころとからだ研究会のご案内

4第32回の「こころとからだ研究会」の日程・内容が下記のように決まりましたのでお知らせします。今回ご発表いただく中村好孝さんは、本年4月から新しく本学スタッフになられました。これまで社会学者ライト・ミルズを中心とした社会学史研究のほか、障害者福祉、そして「ひきこもり」のフィールドワークと、幅広く研究活動を行われてきました。今回はそのなかから以下のテーマでお話いただけることになりました。大変面白い話が聞けそうです。みなさま、是非、ご参集ください。

日時:11月07日(金)14:00-16:00←ご注意ください。いつもと開始時刻が違います。
場所:学科会議室(人間文化学部D0棟2階)←ご注意ください。いつもと違います。

話題提供者:中村好孝氏(滋賀県立大学人間文化学部教員)
 演 題 :『ひきこもり当事者本を分析する』


【 要旨 】:ひきこもり当事者が書いた手記や本などに典型的に見られる、彼らの訴えを、社会学から分析する試みについて報告する。また、このテーマをより一般化したときの含意についても考察したい。一つには、ひきこもり当事者だけでなく、不登校の当事者など、ある種の当事者の訴えを分析すると、そこには共通のパターンや内容があり、それは報告者にとっては非常に興味深く、同時にどう考えればよいのか不思議でもある、ということを論じたい。もう一つ、報告者は福祉の支援者でもあり(現在はほとんどペーパードライバーのようなものになってしまっているが)、社会学の観点の意味はどこにあるのかということについても考えたい。

2008年9月4日木曜日

第31回「こころとからだ」研究会のお知らせ

 第31回「こころとからだ研究会」を、下記の日程と内容でおこなうことになりましたのでご案内いたします。

 今回話題提供いただきます岡本早苗(Sanae Okamoto-Barth)さんは、京都大学霊長類研究所の母子チンパンジー認知発達研究に参加して視線追従など社会的認知の発達について研究をおこない、その後は、マックス・プランク進化人類学研究所他海外研究施設・大学に所属し、旺盛に比較認知発達研究を展開されています。)

 今回は、北海道大学での日本心理学会大会や京都での国際ワークショップに参加されるため帰国されますが、彦根でもこの間の研究成果についてお話いただくことになりました。ご多忙な折とは存じますが、皆様のご参加をこころよりお待ちいたしております。


日時:9月12日(金)16:30-18:30
場所:D4-203号室(人間文化学部棟2階)

【話題提供者】
岡本早苗(Sanae Okamoto-Barth)先生
(マーストリヒト大学経済学部 経済・経営管理学科 & 心理学部 認知神経学科)

【演題】
視線追従能力の発達:比較認知発達的視点からの実験的検証

【要旨】
 日常生活でヒトは他者の視線を追従し、その方向,対象,事象に注意を向けることで円滑で効果的なコミュニケーションをおこなっている。そのような一連の行動を「視線追従」あるいは「共同注意」といい、他者の心の状態を推論する「心の理論」はこの共同注意の機構に立脚していると考えられている。
 視線追従は、乳児が言語を獲得する以前(生後12 ヶ月頃)に出現する(e.g., Corkum & Moore,1991)。また、ヒト以外の霊長類においても視線追従は調べられ、特に進化的にヒトに近いとされるチンパンジーを対象にした研究では、成体のチンパンジーにおける視線追従が報告されているが、発達的見地から視線追従を探ることはほとんどおこなわれていなかった。
 さらに、ヒトでは指示対象を興味を引くおもちゃなど弁別しやすいものにしたり、実験者が対象を指示する際に身振りを大きくしたり、会話を含むなどすることが視線追従の発生を促進することが知られている。これらの外的要因に進化的視点を加味した報告はまだあまり得られていない。また、多くの視線追従研究では事象そのものあるいは生じる前に焦点が当てられ、事象発生後の持続についてはヒトを含めてもあまり調べられていない。
 そこで今回の発表では、次の3つの研究課題(1.視線追従の発生時期、発達の過程における進化的視点からの検証、2.視線追従に影響を及ぼす外的要因、3.視線追従事象の記憶、維持についての検討)に焦点を当てた一連の実験的検証から得られた見解を述べる。

2008年5月19日月曜日

京都大学発達科学研究会・滋賀県立大学こころとからだ研究会合同セミナー

ここから研と京都大学発達科学研究会との合同でのセミナーが開催されます。またもや直前のお知らせですいません。

■京都大学発達科学研究会・滋賀県立大学こころとからだ研究会合同セミナー

【講師】:Prof. Barbara S. Kisilevsky PhD (School of Nursing, Queen's
University、平成20年度日本学術振興会外国人招へい研究者)
http://meds.queensu.ca/nursing/fac_index.php?fld_UserID=17
【テーマ】:Fetal auditory processing in high-risk pregnancies associated
with placental insufficiency
【日時】:5月22日(木) 16時30分~18時
【場所】:京都大学総合研究2号館1F第9演習室
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm

バーバラ・キシレフスキー博士は、看護師資格も有する発達心理学者で、クイーンズ大学で教鞭をとるとともに、隣接するキングストン総合病院の小児科、産婦人科と連携し、人間の胎児期および新生児期の感覚の発達に焦点をあてた基礎研究と応用研究を推進してきました。主要なものの第一は、低リスク胎児を対象とした研究で、ホワイトノイズや音楽などの音刺激や振動音響刺激に対する心拍や胎動を検出し、発達的変化を検討です。これらを通じて、胎児期から新生児への反応の連続性を検証するとともに、母親の声を識別するなど、胎児が胎外からの環境音の特性に注意し、学習し、記憶することを明らかにしてきました。第二は、母親の糖尿病や高血圧、喫煙、未熟児など、高リスク胎児を対象とした研究で、これらの胎児の聴覚刺激への異常な探索反応パターンを同定してきました。このたび、日本学術振興会外国人招へい研究者として来日されましたので、以下の内容でこれまでの研究をご紹介いただきます。
[発表要旨]
Placental insufficiency results in decreased nutrition and oxygen supply to the fetus and is one of the most common causes of fetal/newborn growth restriction. It is important because of the long term effects on the offspring, including neurodevelopmental deficits. Over 20 years of follow-up of growth restricted infants has shown an increased risk of language deficits by 2 to 9 years of age, learning disabilities by 9-11 years of age, and subsequent behaviour problems. Thus, we hypothesize that atypical fetal auditory processing occurs in the presence of placental insufficiency and affects later language development. Because fetal behaviour reflects brain development, to test our hypothesis we have been examining sound induced fetal behaviours. Using short bursts of relatively loud sound, we established that fetuses hear by about 29 weeks GA. Using longer duration relatively lower sound intensities, we have been comparing auditory information processing in fetuses in high-risk pregnancies complicated by conditions which are associated with placental insufficiency with that of low-risk fetuses delivering as healthy, full-term newborns. We have found atypical fetal auditory processing in pregnancies complicated by maternal hypertension, smoking and fetal growth restriction, providing evidence to support our hypothesis. We conclude that environmental sounds are available or shaping neural networks and laying the foundation for language learning before birth. Fetuses in pregnancies complicated by conditions associated with placental insufficiency show atypical auditory processing. Whether the effects are temporary or permanent changes in function is unknown.

2008年4月23日水曜日

第30回こころとからだ研究会開催のお知ら

こころとからだ研究会(第30回)の予定が決まりましたのでアナウンスさせていただきます。
間際のお知らせとなり申し訳ありません。多数のご来場をお待ちしております!。



日時:2008年4月25日(金) 16:30-18:30
場所:滋賀県立大学D4-203教室(人間文化学部棟2階)
話題提供:福永恭啓氏(滋賀県立大学人間文化学部地域文化学科4回生)
 

【演題1】
チンパンジー幼児の発達とこれにともなう活動空間の拡大
【要旨】
チンパンジーの母子間分離を扱った研究は多い。しかし、それらの多くが母子の水平分離のみを問題にしており、垂直分離に関しての知見は少ない。チンパンジーの活動空間は樹上を含む3次元的な空間であり、垂直空間への活動の広がりを調べることも重要である。そこで、本研究では到津の森公園(北九州市)において飼育されているチンパンジーの母子2組を対象に母子の垂直・水平分離に着目し、母子の分離頻度の観察を行なった。その結果、母子間の分離は、水平には5から6カ月齢から始まり、母親を基準とした垂直上方へは8~9カ月齢から、垂直下方には12ヵ月齢から始まった。2組の母子ともに垂直空間への分離において下方空間よりも上方空間を先に利用する傾向にあった。このことから、チンパンジーのアカンボウを母親より上部に行くことを選ばせる何らかの判断要因があることが示唆された。また、母親を基準としたアカンボウの水平と垂直の空間利用率にも有意な差があり、アカンボウは母親からの分離において、母親と同じ水平面の利用を好むことが示唆された。以上より、アカンボウは母親から離れるとき、母親を基準として、まず水平空間、つぎに上方空間、下方空間の順に選好する傾向があると示唆される。今後、他のアカンボウや母親以外の他個体との関係の比較など、より詳細な分析により上記の仮説の妥当性を検討したい。

【演題2】
大阪市天王寺動物園でおこったオスとメスのリーダー争い
【要旨】
天王寺動物園で起こったチンパンジーのオスとメスのリーダー争いについて報告する。リーダー争いにおいて敵対関係にあるチンパンジーのオス同士が緊張を緩和する目的で通常より頻繁に毛づくろいをすることがフランス・ドゥバールによって報告されている。しかし、メスはオスとは違った感覚を持っていると考えられており、この法則がメスにも当てはまるのか今のところはっきりしない。そこで、天王寺動物園において一番緊張が高まるであろう放飼場内での給餌を操作して争いのあるメスとオスの毛づくろいの発生要因と頻度を調べた。その結果、通常と同じ給餌条件では給仕前に高い頻度での毛づくろいが見られた。しかし、給餌を停止すると頻繁に見られたグルーミングがほとんど見られなくなった。ドゥバールの観察した群れでは給餌が行なわれていなくても高い頻度で毛づくろいが行なわれていることから、メスは食物の獲得という目的では緊張を感じるが、日常生活の社会的な要因ではあまり緊張を感じていないと示唆された。またグルーミング中に状況が不利になったメスが性皮をオスに差し出し状況を自分が有利になるように変える場面も観察され、メスが性を争いに巧みに利用していることは興味深い。これらのことをビデオ映像を用いながら紹介したい。

2008年2月29日金曜日

第29回こころとからだ研究会のお知らせ

●こころとからだ研究会(第29回)

日時:2008年2月29日(金) 16:30-18:30
場所:滋賀県立大学D4-203教室(人間文化学部棟2階)
話題提供:城 綾実氏(滋賀県立大学大学院人間文化学研究科)


【演題】マイクロ分析から分かる同期現象の組織化

【要旨】私たちはときおり,他者と同時に同じ言葉を発したり同じ身体動作をおこなう.コミュニケーション時に発生するこの現象を,ここでは同期現象と呼ぶことにする.今回の発表ではまず,先行研究との比較から同期現象が具体的にどのような現象を示しているのかを紹介する.次に,多人数会話において同期現象が達成されたいくつかの映像データから得られた結果を報告する.本研究は,「ターンテイキング(tern-taking)」「投射(可能性)(project(ability))」「権限(entitlement)」といった会話分析の概念をもとに分析している.ただし,本研究では発話だけでなく身体動作も対象としているため,発話と身体動作の相互作用がみられる一方で,発話とは異なる身体動作のコミュニケーションの側面もみられる.さらに多人数会話で同期現象を達成する参与者のマイクロ分析だけでなく,結果的にそれを見る役割になった参与者にも焦点を当てる.同期を達成する者と見ている者,それぞれの行為から,同期現象がどう組織化されているのかを考察する.

2008年1月18日金曜日

第28回こころとからだ研究会のご案内

「第28回こころとからだ研究会」を1月18日(金)に開催いたしますのでご案内申し上げます。

話題提供者は島田将喜さん(日本学術振興会特別研究員・滋賀県立大学)です。島田さんは、昨年の11月から約1か月間、ベルギーのブランケンダール動物園で、集団飼育のボノボの観察も実施されました。今回は、その内容もご紹介いただくようお願いしております。多くのみなさまの参加をお待ちしております。

なお、研究会の後には懇親会も予定しておりますので、こちらにも是非ご参加ください。

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●こころとからだ研究会(第28回)

日時:2008年1月18日(金) 16:30-18:30

場所:滋賀県立大学D4-203教室(人間文化学部棟2階)

話題提供: 島田将喜(日本学術振興会特別研究員・滋賀県立大学)

【演題】サルのコドモの「枝引きずり遊び」とヒトの子どもの「鬼ごっこ」の起源

【要旨】発表者はこれまで特に霊長類の遊び行動に着目した研究をおこなってきた。まず京都市嵐山に餌付けされたニホンザルの群れで頻繁に観察されるコドモの「物を伴った社会的遊び(Social Object Play =SOP)」に注目し、その構造的特徴を明らかにし、参与するコドモが発揮する認知的能力について考察した。さらにヒトの子どもの「鬼ごっこ」という遊び方が、人類普遍的(ヒューマン・ユニヴァーサル)であるという事実と、ニホンザルにおいても、「ゆとり」のある群れにおいては構造的に鬼ごっこに似たSOPが集団内で慣習化するという観察から、鬼ごっこの起源は、最近の出来事ではなく、はるかにヒトとサルの共通祖先の時代にまで遡る可能性があることを指摘した。こうした考察から、最近ではサルよりもヒトに近縁な類人猿におけるSOPがどのような特徴をもつのかを明らかにするプロジェクトを進めている。本発表では、嵐山で観察されたSOPの特徴を紹介し、ヒトの子どもの「鬼ごっこ起源論」が描く見取り図について考察する。
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